My Cinema Talk World: パターソン(Paterson)− チクショウ、詩が好きだ。誰か文句あっか!?(by ジム・ジャームッシュ)

2017/05/17

パターソン(Paterson)− チクショウ、詩が好きだ。誰か文句あっか!?(by ジム・ジャームッシュ)


前作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』から約3年。
ジム・ジャームッシュ作品はヴァンパイアのカップルではなく、平凡な毎日を送る生身の人間たちのお話だ。

パターソン(原題:Paterson)

監督:ジム・ジャームッシュ/製作年:2016年

ストーリー
ニュージャージー州パターソンに暮らすパターソン(アダム・ドライバー)は、妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)とフレンチブルドッグのマーヴィンと暮らしている。
市の巡回バスの運転手をしている彼は、いつも同じ時間に起床し職場に向かう。
仕事の合間に詩を書き、秘密のノートに記している。
夜は行きつけのバーで、一杯のビールを飲むことがささやかな楽しみ。
毎日毎日同じルーティンは続く...そんなパターソンのある一週間の物語。

キャスト
パターソン:アダム・ドライバー
ローラ:ゴルシフテ・ファラハニ
エヴェレット:ウィリアム・ジャクソン・ハーパー
マリー:チャステン・ハーモン
ドック:バリー・シャバカ・ヘンリー
日本人の詩人:永瀬正敏

スタッフ・作品情報
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
製作:ジョシュア・アストラチャン、カーター・ローガン
音楽:カーター・ローガン
撮影:フレデリック・エルムス
製作:
K5 International
Le Pacte
Animal Kingdom
Inkjet Productions

公開:
2016年5月16日 カンヌ国際映画祭
2016年11月17日 ドイツ
2016年12月21日 フランス
2016年12月28日 アメリカ



無欲な男、パターソンが織りなす不思議な詩の世界

アダム・ドライバーが演じるのは、巡回バスのドライバー。
ちょっぴりジョークのようなキャスティング。
彼の名前は、パターソン ―― パターソン(アメリカ ニュージャージー州)に妻と小さな家に住む地味な労働者階級の男。
詩を書くこと以外に物欲は一切ない。
詩と妻の笑顔があれば「何もいりません!」といってもいいほどの無欲な人間だ。
毎日見慣れた同じ市内の風景の中、運転しながら自然に聞こえてくる乗客の会話に耳を傾けながら時おり見せる微かな笑顔。
そうしている間に、時計の針は彼の意識を超えて勝手に進み続ける。
働く人なら覚えがある「無意識のうちに時間が過ぎてた」ってやつだ。
街の空気と流れ行く景色に包まれながら、パターソンの書く詩の世界に入り込んでいく。
彼が生み出した詩が音(サウンド)のように流れてくる、アダム・ドライバーのボイスオーバーが心地いい。

ローラは、同じアーティストタイプとはいえ、パターソンとは真反対の性格。
家中のカーテンを始めあらゆるものにサークル(円)を描きまくったり、カップケーキを焼いている。
常に新しい何かに挑戦するタイプの美しい女性だ。
妻が毎日作るエキセントリックなカップケーキやピザにパターソンは「おいしい!」と笑顔で応える、少しだけ引きつっているのだけれど。
妻の笑顔を見られれば、それだけで日々幸せなのだ。

アーティストのローラ。サークル模様が大好き!

詩、そしてウィリアム・カルロス・ウィリアムズへのオマージュ

パターソンの敬愛する詩人、ウィリアム・カルロス・ウィリアムズ。
彼が残した詩集『パターソン』は、5部から成る難解な詩集だ。
現代人の心と都市の間の類似を、特殊な表現手法を使って編んだ作品 ―― それはさながら、短編小説、手紙、新聞記事などを切り貼りしたコラージュのようだ。

ローラが朝、何気なく発した言葉はパターソンのいく先々に形を変えて登場する。
バスの乗客が発する会話、夜のバーに居つくバーフライ ―― 周囲の人たちは主人公となんらかの糸で繋がっている。
パターソンに暮らす人たちは個として存在し、様々な問題や憂鬱を抱えて生活している。
まるでウィリアム・カルロス・ウィリアムズの詩に登場する苦悩の元に事件を引き起こす人たちのように。
しかしながら、ウィリアムズの詩集のように誰かが滝で綱渡りをするでもない。
またしても映画全体の流れを大きく変えるような大事件は起こらない。

帰宅するとなぜいつもポストが倒れてるの??

パターソンの滝

パターソンが妻の手作りのパンケーキを食べながら詩作をする場所が、パターソン市で有名な大滝(The Great Falls)だ。
詩集『パターソン』が複雑な手法をとりつつ、結局はパターソンという土地とそこに流れる滝に帰着するように、ラストシーンでは主人公もこの大滝に戻ってくる。
―― ここでは涙を必死でこらえる アダム・ドライバーに惹かれること必至だ。

この重要なシーンに登場するのが、彼...『ミステリー・トレイン』の時、どこかへそ曲がりの若造 ジュンを演じた永瀬正敏だ。
二人は、これまたある共通点で繋がってくる。
パターソンにとっては、それこそ“Aha experience”と言えるだろう。
(わかりづらい説明で申し訳ないが、映画を見ればわかる...はず)

A-ha !!!
映画『パターソン』は、主人公が愛してやまない“詩”へのオマージュ、つまり監督が試みた映像と詩の融合だ。
日々の生活と自身の創る詩との間を漂うふわふわした感覚は、見る者に不思議な心地よさを感じさせる。
本作は、労働者階級の主人公 パターソンの生活と彼が織りなす詩の世界が、クロスプロセスのように描がれているのだ。
例によってジャームッシュ監督らしい会話劇ではあるが、登場人物の表情に思わず引き込まれてしまう。
その視座は定距離でいながら、大きく包み込むような優しさが感じられる。

日々を規則正しく慎ましく平穏に送っているパターソンだが、ローラとマーヴィン(犬)との三角(2人と1匹!)関係も注目すべきだろう。
彼女はマーヴィンに話しかける時赤ちゃん言葉になるのだが、それを穏やかならざる様子で見ているパターソンの表情に要注意だ。

パターソンのライバル?! ブサカワ犬のマーヴィン

僕は詩人たちをアウトローの幻視者だと思う。
なんていうか、詩が好きだ。
チクショウ、詩が好きだ。誰か文句あるか!?
by ジム・ジャームッシュ

『Jim Jarmusch Interviews』(東邦出版)より
(1999年11月15日 第43回 ロンドン・フィルム・フェスティバル ナショナルフィルムシアター&『ガーディアン』誌インタビュー)



『パターソン』は、8月26日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。

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